平均寿命の変化と葬儀の役割の変化

葬儀の変化の一因は亡くなる人の構成

葬儀の変化に影響を与えた社会的要因として「高齢化」があります。高齢化の背景には少子化によって高齢者の人口割合が増加したこともありますが、一方で死亡平均年齢が高くなったということも原因のひとつです。
江戸・明治・大正期の平均寿命は40~50代。今から1世紀近く前の昭和初期には80歳以上まで生きる人は20人に一人に満たなかったことを考えると、現代の日本がどれだけ高齢になっているかわかるでしょう。そうした寿命が短いころには長寿は非常にありがたいものであり、同様に有難いものでもあったのです。
2018年の段階で、日本の年齢別死亡数のうち64%が80歳以上で亡くなっているのです。

現役から離れることで訃報を知らせなければならない人も減る

現役世代と老後を分ける年齢を65歳とした場合、その年齢を境界線に社会的活動が大きく減少することになります。65歳を境に新しく知り合う人や社会的繋がりのある人の数は急速に減少していきます。
今回ひとつの境界線として提示した80歳という年齢を超えるころには、現役時代に交流のあった人の中で交流が続いている人は少なくなり、その人の死に関して伝えるべき人はほとんどが親戚だけになっている状態なのです。

葬儀の役割は根源的な「故人を悼む」ことにシフトしている

死を知らせる対象が少なくなれば必然葬儀の規模は小さくなっていきます。また葬儀の大きさを気にする人は少なくなり、結果として葬儀の本来の目的であった、故人の死という事実に向き合うこと、その死を悼み共有することという原始的な葬儀から変わらない役割だけが残っていったのです。

故人を尊重する形としての葬儀の役割

個人間の関係がそれぞれ特別で全く同じ関係性が二つとないように、その人の死に対する思いというものも同じものはありません。ここまでの関係性の人は悲しまなければならない、ここからの関係性の人は葬儀に参列しなくてもよいということはなく、それぞれが死に対して悼む形があります。
生きている人間の人権や尊厳が尊重されるように、故人に関しても同様に尊重されるべきであり、その死に関して一概にこういう形で葬儀をしなければならないというルールや非生産的であるから葬儀全てをやめるべきである、ということは誰にも言うことができないものなのです。
これからも葬儀の形は時代や社会によって影響を受け変化していくでしょう。またいつの日か現在の葬儀式のような形の葬儀はなくなる日がくるかもしれません。しかし、葬儀そのものがなくなったとしても人が他の人の死を悼む気持ちはいつの時代になっても変わらずにあるのではないでしょうか。