なぜ多くの公営斎場に葬儀式場が作られているのか

葬儀はもともとは宗教的な儀式

葬儀というのは宗教的な儀式です。葬儀の主たる要素である葬儀式は宗教者によって、故人があの世の住人であることを認定する儀式なのです。
宗教というのはある種、学問のひとつです。その時代の学問では解明できないことを補完するために宗教によって説明をしているのです。当然、科学が発展していない時代には合理的に説明できる方法がなかったため、宗教の役割は非常に幅広いものでした。やがて科学によってある事柄が解明されると、少しずつその科学的見地が当たり前の知識として浸透していき、科学的な説明が正しい知識として広がっていくのです。

時代が経過しても葬儀の役割は大きくは変わらない

紀元前から「死」というものは、宗教の領分でした。それは死というものが生き物によって不可避の運命であり、「死」の向こう側を観測することができなかったからです。死というものを理解する手助けとして多くの宗教があり、宗教というものが広がっていった理由なのです。
多くの物事はすでに科学的に説明がなされています。しかし、「死」というものに関して合理的な説明をすることはいまだ難しくあります。そのため今でも葬儀や供養と言うのは宗教の領分でもあるのです。

現在では葬儀式場は生活に欠かせない施設に

では、葬儀に関する葬儀式場や火葬施設というのは宗教的な施設なのでしょうか。もしそうだとすれば政教分離の原則から、公的な葬儀式場や火葬施設を建設することはできません。
火葬という行動には宗教的な意味合いもありますが、それ以上に公衆衛生の面の役割があります。多くの公営の火葬施設は遺体を衛生的に処分するため、伝染病防止の見地から作られています。
また近年公営の火葬施設に併設して葬儀式場も設置されています。

80%以上の人が葬儀に式場を利用しているため必要不可欠な施設に

葬儀そのものは宗教的な儀式ではありますが、葬儀式場の設置が政教分離の原則として問題があるわけではありません。
もともと葬儀は自宅や寺院などの宗教施設で行われていました。自宅が難しい場合には自宅の周辺の地域の施設で葬儀が行われました。しかし、集会所やコミュニティセンターなどの地域の施設で葬儀を行うのは好ましくないという風潮もあり、多くの葬儀が1970年代ごろから葬儀専用の式場で行われるようになってきたのです。その葬儀は必ずしも宗教をもとにしたものではなく、中には無宗教葬と呼ばれる宗教色を感じさせないものも多くありました。葬儀式場を利用しての葬儀はもはや日本人にとって当たり前のことであり、葬儀式場がなくては葬儀が成り立たなくなったのです。
葬儀式場は宗教的な施設ではなく、生活を行っていく中で必要不可欠な葬儀を行うための場所と認識されています。そのため多くの自治体では火葬施設に付随して多くの公営の葬儀式場が作られたのです。